最後の戦いが始まった。

ううん……、オトメの戦いはこれで最後にしなきゃいけないの。
オトメ同士が戦っても、何も生まれない。
みんなの悲しむ顔が増えるだけ。
あたしは、オトメになってそのことがよくわかったの。

本当はあたし、戦いたくない。

でもね、あたしの夢。みんなが笑顔で暮らせる国をつくりたいから……。
とても、とても、大きな夢だよね。
だけど、信じなければ夢は叶わないし、信じて進まなきゃ何も起こらない。
だから、想いを、夢を、勝ち取るためにあたしは戦うの。

マシロちゃん、マシロちゃんの夢はなに？
マシロちゃんが正しい国を作るなら、民のために戦うのならあたしはやる……。

ニナちゃん、ニナちゃんの夢はなに？
あたしは、大好きなニナちゃんの笑顔がまた見たいの。
みんなが笑顔で暮らせる国で、ニナちゃんとまたいっしょに過ごせたら、どんなに嬉しいんだろうって。

お願いお母さん。
あたしに勇気と力を貸して。
ニナちゃんを止めるため、あたしの夢を叶えるため……。
これが、あたしの最後のお願いだから――。

つらい、楽しい、悲しい、うれしい……。
心に刻んだ思い出。
胸からあふれ出る想い。
胸にそっとしまっておく想い。

ガルデローベに入学した頃の私。真新しい制服に身を包んだ私――。
そんな私を見て、お父様は言った。
「いつか、花嫁衣裳を着たお前をこうして送り出す日が来るんだろう」って。
私はお嫁になんて行かない。
お父様のためにマイスターになるのだから。
いつまでもお父様の側にいたいから……。
でも、真実の……、私の真実の想いは、お父様には伝わらない。
ひとりのニナとしてのその想いが――。

いま私は、お父様が望んでいたマイスターオトメになった。
殿下に仕えるマイスターとして。
……だけど、私の周りからは、大切な人が次々といなくなっていく。
ひとすじの涙がほおをつたう。

……今は、もう涙さえ乾いて出ない。
ねぇ、私はここにいるの。
誰か私を見つけて……。

ニナちゃんの攻撃を受けたあたしたちは、またどこかに飛ばされてしまった。
目が覚めると見知らぬところにいたの。
一時はどうなるかって思ったけど、とにかく助かって良かったね、マシロちゃん。
……でも、ここは、どこ？　なんて場所？？？　わかんない。
とても不思議な谷！！
でも綺麗なところ、山は木霊し、小鳥のさえずりが心地良い。
風の匂いも、緑の匂いもこんなに気持ちいいなんて、ちょっと忘れてたかも。
え〜！　もしかして、ここって頭領が言ってた……あの場所なの〜〜！

それに、すっごくびっくりなのは、この谷で意外な人と超有名人に出会ったってこと？！
それは、ミユさんと……あたしも知ってる舞衣さんと、……猫神様あ？？？
へへへ〜、そしてね、舞衣さんの作ってくれたラーメンが美味しいの！！！

ん？　猫神様、どうしたの？！
獲物が掛かったって？　今夜のおかず？
うわ〜、楽しみ……、ってたんまたんま、それはまずいってばあ！！！

アスワドの村に、セルゲイがやって来た。
もちろん目的は、あたしとマシロちゃんを捕らえること。
しかも村の人たちに、あたしたちをセルゲイに引き渡さないと村を攻撃するって言うの。
あたしは、絶対にそんなことさせられないから、セルゲイの元へ向かったの。
でも、本当はセルゲイに会いに行きたかっただけかもしれない。
一度は大好きだったセルゲイ……。
知りたいの、どうしてあたしの「おじさま」だったのか？

……ううん、でも今は、そんなことどうでもいい。
だって、あたしとマシロちゃんには、かなえたい夢があるんだから！
降伏なんてしない。
ね、マシロちゃん。

「うわぁ〜！！」　えっ！　速い！
今の攻撃はなに！？
セルゲイじゃない！？
見たことのない、黒い影があたしを襲うの！！
あなたたちはいったい……。

アスワドの村に来て以来、なんだかすっかりなじんじゃったあたしとマシロちゃん。
う〜ん、もうこのまま、村に居座っちゃう？
マシロちゃんには、口がさけてもそんなこと言えないけど、それくらいいごごちがいいの。
ほんと頭領ってとっても素敵なの、統率力があって、実行力があって、村のみんなに尊敬されてる、……ラドさんたちだって、見た目ほど怖くないんだよ。
でも、そんな頭領から、カルデアを攻撃するから手伝って欲しいって、物騒なお願いをされたの。
確かに、カルデアのフィアってオトメの人に襲撃されて、村にはすごく被害が出たけど……。
やられたらやりかえすじゃ、いつまでたっても戦いは終わらないよ！
あたしもお世話になってる立場だけど、そんなことのためにオトメの力を使いたくないの。

どうしたの？　え？　村に誰かやって来るって？
と、頭領！　み、みんなも、急に武器を持ち出して！
そんな〜、村に入って来るものには死をって？
わ、こんなタイミングでジャバルまで！
助けてあげてよ、頭領！　あれは、マシロちゃんの……！！！！！

マシロちゃんがね。急に「キスさせろ」って言うんだよ！
もう、こんなところで、とつぜんなんだって言うの？
確かに、ここは暗いし、ムードは満点……、
って、やだ。あたし、なにを言ってるのよ！！
ちょ、ちょっとマシロちゃんってば、なんだか目つきがだんだんいやらしくなってきたよ。
え？　「大人しくするのじゃ!!」、「よいではないか、よいではないか」って？
そんな男の人みたいな言い方やめようよ〜〜。

そういうわけで、あたしも最初は、「いや〜、いや〜」って、
すっごく抵抗してたんだよ。
だけど、だんだんマシロちゃんの顔が迫ってきて……、
その真剣な眼差しに、あたしもついに…………。